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婚約破棄の慰謝料請求

結婚は、両性の自由な意思の合致によってのみ成立します(日本国憲法第24条)。
婚約を不当に破棄した場合、「契約不履行」ないし「不法行為」となり、慰謝料その他の損害賠償義務が生じます。

婚約とは

民法の条文を調べても、「婚約」という用語は、ありません。
婚約とは、将来結婚しようと定めた当事者間の約束です。
法律上、「婚約」=将来的な結婚しようという当事者間の事前の約束は、「婚姻の予約」という契約の一種となりますから、正当な理由無く一方的に「破棄」した場合には、契約不履行(債務不履行)、ないし「不法行為」となり、「損害賠償責任」が生じる、と解釈されています。

「好きじゃない」
「親に反対されたから」
「他に好きな人が出来た」
「やっぱり結婚出来ない」

そのような説明では、とても納得出来ませんし、済まないことが沢山あります。

「今までの「時間」は何だったの?」
「挨拶した親戚へはなんて言えばいいの?」
「準備に要した費用はどうするの?」

婚約の破棄・解消をされた場合であっても、やむを得ない正当な理由があれば、破棄した相手に慰謝料を求めることは出来ません。
逆に、やむを得ない事情によって婚約破棄した場合、破棄した側から慰謝料請求することも可能なケースがあります。

婚約は「両性の意思の合意」によって成立する訳ですから、結納その他の、慣習的な儀式の存在を必要としません。
もっとも、客観的な証拠がないと、相手が婚約したという事実を否認した場合、何等の疎明が出来ませんから、ある程度の証拠は必要だと思った方がいいです。

最高裁判所の判例によると、正当な理由無く「婚約」を破棄された場合には、慰謝料請求することが可能であると判示されています。

参考判例
最高裁判所 昭和38年9月5日 判決
「当事者が真実夫婦として共同生活を営む意思で婚姻を約し長期にたり肉体関係を継続するなど原審判決認定の事情(原審判決理由参照)のもとにおいて、一方の当事者が正当の理由がなくこれを破棄したときは、たとえ当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従つて結納をかわし、もしくは同棲していなくても、相手方は、慰謝料の請求をすることができる。」
最高裁判所 昭和38年12月20日 判決
「当事者がいずれも高等学校卒業直後であり、男性においてなお大学に進学して学業を継続しなければならないときに肉体関係を結ぶに至つた場合でも、将来夫婦となることを約して肉体関係を結んだものであり、その後も男性において休暇で帰省するごとに肉体関係を継続し、双方の両親も男性の大学卒業後は婚姻させてもよいとの考えで当事者間の右の関係を黙認していたなど判示の事情のもとで、男性が正当の理由がなくて右女性との婚姻を拒絶したときは、右女性は婚姻予約不履行による慰謝料を請求することができる。」

「結婚前提の交際(付き合い)」と「婚約」

結婚前提の交際とは、「交際をしてみて、お互いに問題が無ければ正式に結婚しましょう」という合意です。

婚約とは、すでに結婚することの合意が成立(契約が成立)していて、具体的に結婚に向けての準備を進める段階にいることをいいます。

つまり、「結婚前提の交際」とは、「婚約」の前段階という意味合いになります。

裁判の場合ですと、プロポーズとその承諾があった場合でも、
「一時の情熱に浮かれた行為」であるのか、
「誠心誠意をもって将来夫婦たるべき合意が成立したもの」なのか、
という点が問われることもあります。

誠心誠意をもって将来夫婦として終生の結合を誓う程度の合意が成立したものといえず、婚約が成立したとは認められないとされた裁判例もあります。

参考判例
東京高等裁判所 昭和28年8月19日 控訴審判決
「被控訴人が控訴人の婚姻の申込に対し承諾したとはいえ、かくの如きことは本件当事者のような若い男女間にはありがちなことで、前示の各証拠を総合するに双方の一時の情熱に浮かれた行為と認められ、いまだ誠心誠意をもって将来夫婦たるべき合意が成立したものとは認定し難い。要するに本件当事者のした約束は未だ法律的保護に値する程度の確実な婚姻の予約とは判断し難い。」

もっとも、曖昧な態度で結婚の具体的な話を引き延ばしたことで相手に婚約破棄の決意を誘発させた(昭和57年6月21日 徳島地方裁判所 判決)、結婚相手を紹介するサイトに独身と偽って会員登録し、独身であると偽って結婚を前提とした交際であると誤信させて3年間近くにわたって肉体関係を伴う交際関係を継続した(平成19年1月19日 東京地方裁判所 判決)などの事情によって慰謝料の請求を認めた裁判例もあります。

一般に、婚約指輪をもらっていたり、新居を借りたり(または購入したり)、結婚式場や新婚旅行の予約、結納、などが済んでいれば、通常は、婚約が成立していると考えられます。


婚約当事者の貞操義務

【大阪高裁 昭和53年10月5日 判決要旨】
婚約は将来婚姻をしようとする当事者の合意で、婚約当事者は互いに誠意をもつて交際し婚姻を成立させるよう努力すべき義務があるため、貞操を守る義務をも負っているというべきである。

親や子供の反対・妨害による婚約破棄

当事者一方の親や子どもが、婚約や結婚に反対をしたとしても、原則として、直ちに不法行為となる訳ではありません。
ただし、当事者の親や子が加担して、婚約や結婚の妨害するをするなどして破棄・破綻に陥らされた場合には共同不法行為となり、その親や子に対しても慰謝料請求することが可能です。

参考判例
最高裁判所 昭和38年3月26日 判決
「婚姻予約当事者の一方が自己の親に加担し、もしくは親が右当事者本人に加担し、他の一方をして婚姻を断念せざるを得ない境地に陥れて婚姻予約を破綻させた場合、これについて正当の事由を有しないときは、共同不法行為として各自連帯して損害賠償の責任を免れ得ない。」

婚約破棄に関する判例

個別の婚約破棄事案に関する判例は、以下のページをご参照ください。

婚約破棄に関する判例


婚約破棄の慰謝料請求するために必要な要件

婚約破棄の慰謝料請求
慰謝料請求に必要な条件
(1)婚約の事実があること
婚約と呼べるだけの事実行為とは、以下のようなものです。
結納を交わした
婚約指輪を渡した
両親への挨拶・紹介をしている
新居の契約や家財道具の購入
結婚式場や新婚旅行の予約
もちろん、口約束でも成立する可能性はありますが、相手から否認された場合、立証は難しいです。
また、単に同棲していたとか、子供を妊娠した、というだけでは「婚約」とは言えません。

(2)正当な理由なく破棄された、又は正当な理由で破棄したこと
婚約破棄をする正当な理由には、以下のようなものがあります。
相手方に他に交際相手がいた
相手方が他の異性と肉体関係を持った
相手方が刑事事件を起こした
相手方が多額の借金や前科があることを隠していた
学歴、職業、地位などの重要事項について嘘をついていた
相手方への虐待や暴力、侮辱をした
回復不可能な精神障害になった
回復不能な病気やケガを負った
日常生活に支障が出る程度に経済状態が悪化した
配偶者(妻や夫)がいた
給与や借金の額など生活の重要な部分に嘘があった
正当な理由によって破棄された場合には、慰謝料請求は出来ません。
「親が反対したから」「他に好きな人が出来たから」などの理由は正当な理由とはならず、慰謝料請求をすることが可能です。


婚約破棄の場合は、離婚や内縁破棄と違い、破棄される側に非が無い場合であっても、結婚後に正常な生活が出来ないと思われる場合には、破棄の正当事由として認められやすい傾向にあります。


婚約破棄に伴う損害

当然、婚約に伴って、様々な費用負担が生じている場合もあります。

  • 婚約指輪の購入費
  • 結納金
  • 新居を借りた費用、新居の購入費
  • 家具の購入費
  • 結婚式場のキャンセル料
  • 親戚への挨拶状
などなど

さらには、妊娠してしまっているという場合もありますが、その場合、中絶する場合であれば手術代や休業損害、出産する場合には、認知を養育費の問題も生じます。

結婚するために、それまで働いていた職場を退職してしまった場合の、いわゆる寿退職によって生じた減収分について、その賠償請求を認めるかどうかは、判例の見解は分かれているようです。

もしも出産する場合には、出産に伴う通院費や出産費用、および、認知と養育費についても、当然、請求することが可能です。

養育費に関しては、双方の収入によって、一定の基準が定められています。

養育費算定表


なお、裁判などの場合であれば、家具購入費やエステ費用などで、その利益が現存する部分については損害から除外され、出費総額から一定割合を控除した金額が「損害」と認定されることになります。


もちろん、婚約や婚約破棄によって生じた負担や損失のうち、何等の利益が現存しない部分については、慰謝料に加算して請求することが可能です。


婚約破棄の慰謝料の相場

原則として、婚約破棄の慰謝料に関しては、決まった方程式や計算方法は無く、当事者間で合意をする場合には、金額は自由ですので、示談においては、必ずしも「相場」がある訳ではありません。
もっとも、過去の一般的な裁判例・調停例によって認定された慰謝料の金額を、一定の基準として考える場合、婚約破棄の慰謝料は、大半が20万円〜200万円です。


婚約破棄のショックによって「うつ病」などの精神的障害が生じた場合でも、裁判においては、直ちに慰謝料の加算や通院費その他の賠償請求が認められる訳では無く、具体的な破棄の理由や、破棄に伴って必然的に生じることになる事情経緯などによって、考慮されることになります。


婚約破棄の慰謝料請求が出来ない場合

婚約が成立していたといえない場合
「将来結婚したいねという話をしていた」等、婚約が確かに成立していたと言い切れない場合には、仮に交際や同棲の期間が長ったとしても、慰謝料などの不法行為責任は生じません。

既婚者であることを認識しながらの、将来的な離婚を前提とした婚約。
夫婦関係が事実上は破たんしていて、戸籍上のみの形骸化した状態であるような場合なら、
請求出来る可能がありますが、そうでなければ、
離婚を前提とする婚約=「公序良俗に反する契約は無効」となり、
原則として、何らの法的保護も受けられません。

婚約破棄されるような有責性がある場合
如何に一方的に破棄されたとしても、破棄された側に、DV・不貞、重大な嘘、その他、
破棄されることがやむを得ない理由・原因を有する場合には、
原則として、慰謝料請求することが出来ません。


上記の他、男女の交際においては、性的な関係を持つ前後で、口頭や手紙によって「結婚」の話をすることが多くあります。
しかしながら、そのような、一時の情熱に浮かれて取り交わされた「結婚の約束」自体は、普通の男女間の交際において良くありがちのことであり、直ちに誠心誠意を以って将来にわたって夫婦たるべき合意が成立したものとは認定し難い、として、婚約の成立自体が否定される判例が多数ありますので、ご注意下さい。

参考判例
東京高等裁判所 昭和28年8月19日 控訴審 判決
「被控訴人が控訴人の婚姻の申込に対し承諾したとはいえ、かくの如きことは本件当事者のような若い男女間には有り勝ちなことで、前示の各証拠を総合するに双方の一時の情熱に浮かれた行為と認められ、いまだ誠心誠意をもつて将来夫婦たるべき合意が成立したものとは認定し難い。要するに本件当事者のした約束は未 だ法律的保護に値する程度の確実な婚姻の予約とは判断し難い。」
前橋地方裁判所 昭和25年8月24日 判決
「たとえ被告が原告に宛て前記の如き文言ある手紙を書き送り、又原被告が將來夫婦となるべきことを語り合つたとしても、右は恋愛関係にある男女の睦言ともいうべく、右事実を目して原被告間に誠心誠意を以て終生の結合を誓う婚姻予約が成立したものとは認められず、寧ろ右原被告間の関係は性的享楽を旨とした、かりそめの結合たる私通関係に過ぎないものと見るのが相当である。」

参考判例
最高裁判所 平成16年11月18日 判決
「前記の事実関係によれば,@上告人と被上告人との関係は,昭和60年から平成13年に至るまでの約16年間にわたるものであり,両者の間には2人の子供が生まれ,時には,仕事の面で相互に協力をしたり,一緒に旅行をすることもあったこと,しかしながら,A上記の期間中,両者は,その住居を異にしており,共同生活をしたことは全くなく,それぞれが自己の生計を維持管理しており,共有する財産もなかったこと,B被上告人は上告人との間に2人の子供を出産したが,子供の養育の負担を免れたいとの被上告人の要望に基づく両者の事前の取決め等に従い,被上告人は2人の子供の養育には一切かかわりを持っていないこと,そして,被上告人は,出産の際には,上告人側から出産費用等として相当額の金員をその都度受領していること,C上告人と被上告人は,出産の際に婚姻の届出をし,出産後に協議離婚の届出をすることを繰り返しているが,これは,生まれてくる子供が法律上不利益を受けることがないようにとの配慮等によるものであって,昭和61年3月に両者が婚約を解消して以降,両者の間に民法所定の婚姻をする旨の意思の合致が存したことはなく,かえって,両者は意図的に婚姻を回避していること,D上告人と被上告人との間において,上記の関係に関し,その一方が相手方に無断で相手方以外の者と婚姻をするなどして上記の関係から離脱してはならない旨の関係存続に関する合意がされた形跡はないことが明らかである。
以上の諸点に照らすと,上告人と被上告人との間の上記関係については,婚姻及びこれに準ずるものと同様の存続の保障を認める余地がないことはもとより,上記関係の存続に関し,上告人が被上告人に対して何らかの法的な義務を負うものと解することはできず,被上告人が上記関係の存続に関する法的な権利ないし利益を有するものとはいえない。そうすると,上告人が長年続いた被上告人との上記関係を前記のような方法で突然かつ一方的に解消し,他の女性と婚姻するに至ったことについて被上告人が不満を抱くことは理解し得ないではないが,上告人の上記行為をもって,慰謝料請求権の発生を肯認し得る不法行為と評価することはできないものというべきである。


婚約者の浮気相手に対する慰謝料請求

婚約というのは、「結婚の予約」という契約の一種であるため、婚約者が他の異性と肉体関係を持った場合、その婚約者に慰謝料請求が出来るのは当然として、その浮気相手に対しても、一定の場合、慰謝料請求をすることが可能です。

もっとも、この場合、その浮気相手が責任を負うのは、あくまで、婚約者がいるということを認識していた上で、不貞行為に至った場合に限られます。
独身男女間においては、「自由恋愛」が原則であるため、単に交際相手がいるという認識だけだった場合には、不法行為責任は負いません。




婚約破棄の慰謝料請求に関するご相談・お問い合わせ


ご相談・お問い合わせ
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